日本にも諜報機関を
最近日本では、インテリジェンス(諜報活動)に関する本が流行っている。

諜報と聞くとスパイを思い出して、うさんくさいと感じる人も多いだろう。

だが海外では、政府が新聞やテレビで入手できない情報を手に入れるために、スパイ活動を行うのは当たり前のことである。

米国は
CIA(中央情報局)、ドイツはBND(連邦情報局)を持っている。日本は、いわゆる先進経済国の中で、本格的な諜報機関を持っていない、ただ一つの国である。

もちろん日本にも内閣情報調査室や、外務省国際情報局、防衛省防衛局など、諜報活動を行っている機関はある。

しかしその規模は、
CIABNDの比較にはならないほど、小さい。

 日本が外国に大きく依存していることを考えると、諜報機関がないことは、驚きである。

たとえば、日本の食料自給率は年々下がっている。

カロリーベースの自給率は、米国やフランスで100%、ドイツで91%、英国で74%に達しているが、日本は40%にすぎない。

昭和60年の自給率(53%)に比べると、大幅な低下だ。つまり日本は、先進国の中で最も輸入食料に頼っているのである。

重要なエネルギー源である原油に至っては、ほぼ100%輸入である。

さらに、周辺諸国の一つである北朝鮮は、弾道ミサイルだけでなく、核爆弾まで持っている。日本は2003年と2006年に、ようやく自国の偵察衛星を打ち上げたが、それまでは北朝鮮がミサイルを発射しても、米国の情報に頼らなくてはならなかった。

だが偵察衛星による高空からの映像だけでは、情報としては不十分であり、地上の情報提供者が絶対に必要だ。

米国は、2003年に侵攻するまで、国内にスパイがほとんどいなかった。このため、衛星が撮影した映像や、電話や無線の傍受だけに頼っていた。イラクが化学兵器などの大量破壊兵器を持っていると確信して攻め込んだものの、全く発見できなかった。

イラクに送られた米軍は、今やベトナム戦争を思い出させるような、出口の見えない戦いを強いられている。

つまり、盗聴技術や衛星がいくら発達しても、人間を通した諜報活動が重要性を失うことはないのだ。

日本の国益を守るためには、外国に情報提供者を確保し、国運を左右するような事態に備えることが必要だと思う。政治家が正しい決定を行うには、諜報機関が確度の高い独自の情報を提供することが、不可欠である。

米国は、諜報活動に何十億ドルもの金を注ぎ込みながら、誤った情報を大統領に提供したため、大失敗した。

スパイは、ジェームズ・ボンドのような映画の世界だけのものではない。21世紀の日本の指導者たちは、諜報機関なしで正しい判断ができるのだろうか。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹) 筆者ホームページ http://www.tkumagai.de